夏休みが始まると、子どもが家で過ごす時間が長くなります。
「毎日、何をさせよう?」
「何か特別な経験を用意しなくては」
「せっかくの夏休みを、有意義に過ごしてほしい」
そんな思いから、予定を考えているお母さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
旅行や自然体験、イベントなど、夏休みならではの経験もすてきです。
けれど、子どもにとって大切な経験は、特別な場所にだけあるわけではありません。
食卓を拭く。
洗濯物をたたむ。
植物に水をあげる。
野菜の皮をむく。
家族の箸を並べる。
毎日の暮らしの中にも、子どもが自分の手を使って経験できることがたくさんあります。
この夏、子どもに一つの「お仕事」を任せてみませんか。
お手伝いは、家事を早く終わらせるためだけのものではありません
子どもにお手伝いを頼むと、大人だけで行うよりも時間がかかることがあります。
洗濯物がうまくたためなかったり、水をこぼしたり、途中で別のことに気を取られたりするかもしれません。
忙しいときには、大人が自分で済ませたほうが早いでしょう。
それでも子どもが暮らしの仕事に参加することには、家事の負担を減らすこととは別の意味があります。
子どもは実際に手を動かしながら、
- 物の扱い方を知る
- 手や身体の動かし方を覚える
- 仕事の順序を経験する
- 最後までやり遂げる感覚を持つ
- 自分も家族の暮らしに関わっていると感じる
といった経験を重ねていきます。
誰かが用意してくれた暮らしを受け取るだけでなく、自分もその暮らしをつくる一人になるのです。
シュタイナー教育が大切にする、手を動かす経験
シュタイナー教育では、子どもが自分の手や身体を実際に動かす経験を大切にします。
家事や手仕事には、始まりがあり、順序があり、終わりがあります。
例えば、食卓を整える仕事なら、
- テーブルを拭く
- 人数を確かめる
- 箸や食器を用意する
- それぞれの場所へ並べる
という流れがあります。
子どもは、言葉で説明を聞くだけではなく、繰り返し手を動かす中で、その順序を自分のものにしていきます。
最初は大人の動きを見ながら行い、やがて一人でもできるようになる。その過程そのものが、子どもの学びになります。
夏休みに任せやすい「小さなお仕事」
初めから難しい家事を任せる必要はありません。
年齢や経験、その子の興味に合わせて、無理なく取り組める仕事を一つ選びます。
例えば、次のようなものがあります。
食事に関わる仕事
- 食卓を拭く
- 箸や食器を並べる
- お茶を用意する
- とうもろこしや枝豆の下ごしらえをする
- 食後の食器を運ぶ
洗濯や掃除に関わる仕事
- タオルをたたむ
- 靴下を組み合わせる
- 雑巾で床を拭く
- 玄関の靴をそろえる
- 小さなほうきで掃く
植物や生き物に関わる仕事
- 植物に水をあげる
- 枯れた葉を取り除く
- 野菜を収穫する
- 飼っている生き物の水を替える
大切なのは、仕事の数を増やすことではありません。
まずは「これなら続けられそう」と思えるものを一つ選びましょう。
1.役割を一つに絞る
「何かお手伝いして」と言われても、子どもは何をすればよいのか迷うことがあります。
「夕食の前に、家族の箸を並べる」
「朝、植木鉢に水をあげる」
というように、具体的な役割を一つ決めると、子どもにも分かりやすくなります。
毎日違う仕事を頼むよりも、まずは同じ仕事を繰り返すほうが、手順を覚えやすく、自分の役割として感じられるでしょう。
2.できるだけ同じ時間に行う
お手伝いを暮らしのリズムに組み込むことも、続けやすくする工夫です。
例えば、
- 朝食の後に植物へ水をあげる
- おやつの後に洗濯物をたたむ
- 夕食の前に食卓を整える
- お風呂の前にタオルを用意する
など、すでにある生活の流れと結びつけます。
その都度大人に言われて行うのではなく、「この時間になったら、この仕事をする」という流れが少しずつ身についていきます。
毎日まったく同じ時間でなくても構いません。ご家庭の生活に合った、無理のないタイミングを選びましょう。
3.最初は大人も一緒に始める
初めての仕事は、言葉だけで説明するよりも、大人が一緒に手を動かすと伝わりやすくなります。
「ここを持ってね」
「この端と、この端を合わせてみよう」
「お母さんはこちらをするから、こっちをお願いできる?」
と、具体的に示します。
すぐに一人でできるようになることを求めず、必要な間は一緒に取り組みます。
何度か繰り返すうちに、少しずつ大人の手助けを減らしていけばよいでしょう。
4.上手さや速さを求めすぎない
子どもがたたんだタオルは、端がそろっていないかもしれません。食卓に並べた箸の向きも、ばらばらかもしれません。
そのようなとき、大人が子どもの目の前ですぐに直してしまうと、「自分のしたことでは足りなかった」と感じることがあります。
安全や衛生に問題がなければ、多少不ぞろいでも、そのまま受け取ってみましょう。
必要がある場合は、
「次は、こちらの端を合わせてみようか」
と、次回につながるように伝えます。
完成の美しさよりも、子どもが自分の手で関わったことを大切にしたいものです。
「上手だね」よりも、働きをそのまま受け取る
お手伝いをしてくれたときは、大げさに褒めなくても構いません。
「助かったよ」
「食卓が整ったね」
「お水をもらって、植物が気持ちよさそうだね」
「一緒にできてうれしかった」
と、子どもの働きによって何が変わったのかを、具体的に伝えてみます。
自分の仕事が家族の役に立ったことを感じられる言葉です。
お手伝いを、褒められるための特別な行為ではなく、家族みんなで暮らしをつくる自然な営みにしていきます。
うまくできない日があっても大丈夫
最初は喜んで始めても、毎日続くとは限りません。
疲れている日や、遊びに夢中になっている日、「今日はしたくない」と感じる日もあるでしょう。
そのようなときは、すぐに責めたり、お手伝いそのものをやめたりせず、
「今日は一緒にしようか」
「最初の一つだけお願いできる?」
と、少し手を添えてみます。
大人にも余裕がない日はあります。その日は代わりに行い、翌日からまた戻っても構いません。
暮らしのリズムは、毎日完璧に守るための決まりではなく、崩れたときに戻ってこられる流れです。
特別な予定がない日にも、小さな学びがある
夏休みの思い出は、遠くへ出かけた日や、特別な体験をした日にだけ生まれるものではありません。
一緒にとうもろこしの皮をむいたこと。
洗濯物が風に揺れる中で、タオルを取り込んだこと。
朝の光の中で、植物に水をあげたこと。
そのような何気ない時間も、子どもの中に残っていくのではないでしょうか。
毎日同じ仕事を繰り返すうちに、手が少しずつ慣れていきます。
そして、「自分にもできる」「自分も家族の役に立っている」という喜びにつながっていくかもしれません。
この夏、まずは一つ、お子さんに任せられそうな「お仕事」を見つけてみませんか。
