すうっと息を吸って、
はあっと吐く。
下を向いているのは悲しみじゃない。
高学年クラスがいつもとちょっと違う。
幾何学(きかがく)の学習。
コンパスで、
くるっと。
それだけで、子供たちの雰囲気が変わる。
別に奇跡を起こしているわけじゃない。
紙とコンパス、それから子供たちの心が選んだ色彩。
そこにあるのは、法則性。
この順番でこうしたらこうなるという、
決まりきったルール。
誰かが創造したわけでもない。
いつからあったのかもわからない。
けれども、
その真理は美しいドレスをまとって目の前に現れる。
何度でも。
手順さえ守れば、
誰がやっても同じになる。
みんな一緒。
なのに違うんだ。
同じものは一つもない。
法則は同じでも、
それを見ている人が違うから。
人間は不思議なくらいみんな違う。
この世界にある真理。
変わることがない絶対のもの。
人の気持ちが及ばないもの。
けれどそれを見ている人が違うから、
こんなにも心の中に花が開く。
自分のこの手が、
美しいものを生み出す。
見たこともないような美しさ、
でも確かに目の前にある。
あるシュタイナー学校の先生がこんな話をしてくれました。
授業で幾何学の花をした時、
どうしても時間が足りなくて。
でも仕方ないからと、
授業の終わりの挨拶をした。
なのに挨拶をした直後、
子供たちは一斉に席に座り、
自分の花に色を塗り続けた。
誰も教室の外に出ない。
休み時間なのに、黙々と作業。
幾何学の花って、
私の手に込められた美しさが紙に滲み出たみたい。
子供は知っています。
「わたし」の手も「わたし」も美しい。